ぼくの世界は キュービズム
楽しさと虚しさ、慈悲と無情、繁栄と衰退、熱狂と沈鬱、動と静、等々。
互いに対立する感情や物事の状態は、別個の世界に存在するわけでも経時的に入れ替わっているわけでもなく、そこに同時に存在しているのだと肝に銘じたい。
一見単色ベタ塗りに見える風景も、
一歩後ろに下がって眺めたり、裏側に回って見たり、横から見たり、下から懐中電灯で照らして見たり、
様々な方向から観察すると、複雑な色合いをもって乱反射していることに気付く。
わたしの心も然り。
わたしは人を憎みながらも心の底から愉しく人と談笑することができる。平和って大事だよねと思いながら人を殴る。
親が死んで悲嘆にくれた直後にコメディードラマを観て馬鹿笑いだ。
お気に入りの綺麗な絵画をビリビリに引き裂いてゴミ箱に捨てる。
遠方の友人と会って遊ぶ約束を取り付け、指折り数えて約束の日を楽しみにしつつ、その楽しい気分を抱えたまま約束の日が来る前に自殺することだってあり得る。矛盾はない。人の心はキュービズムなのだから。
そんなことを考えつつ、ぼくはこの絵を作った。
使ったのは、
屋久島に行った時に撮影した樹木の写真、
女性誌の化粧品広告、
科学誌の記事(宇宙の写真と原子モデル図)、
古着の切れ端、マスキングテープ、
ニュース誌の記事(とある戦地の瓦礫やデモ隊の写真および文章)
である。
いちばん、人間の肌色をサンプリングするために化粧広告の女性の顔写真を切り刻む作業が精神的に辛く罪悪感を覚えた。